空沼世界ネルヴァの海底洞窟

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  + 空沼世界ネルヴァの海底洞窟

 

 頭上から透明な光のカーテンが降りそそぎ、かくはんされ、たゆたう

 光のまだらは水底の岩に投影され、

 あるいは乱反射して、不思議な紋様を形作った

 

 不夜の世界において、岩底の純黒は星めらのごとく

 絶えまない架空の星座を描き続ける

 

 ここは空色無用くうしきむようのネルヴァ

 夜に怯えた真祖の泊まり木

 

 

 

 

 + /天使のおしごと

 

 こんなド田舎世界の海の中に宝があるだなんて信じがたいことだけど、

 それを回収する仕事なのだから仕方がない。

 透明に晴れ渡った青空。砂糖のように柔らかな白砂。

 あまりにも綺麗な海だったので服を脱いでもぐると、即死した。

 

 どうも強力な寄生虫が支配する海域だったらしい。

 僕の死体はドロドロに溶けてしまい、集まってきた魚たちの餌になった。

 美しい景観が台無しだ。なんてことだ。

 仕方ないので僕は死後の世界に転生し、そこで対策を練ることにした。

 

 +

 

 僕は天使の眷属。

 ニンゲンの生み出す創作世界を渡り歩く幻想の種族だ。

 最近流行りの転生というやつで、

 世界を渡るには一度生まれ変わらなけばならないのだが、 

 逆に言うと、いくら死んでも次があるので、死ぬことに対して恐怖がない。

 これは異世界人が恐れられている理由の一つだ。

  

「ラップフィルムがあったでしょ。あれで全身を囲って、潜ればいいんじゃないの?」

 

 僕の上司、天使のメリーは死後の世界にあるカフェテリアで待機中。

 興味なさそうに足を組んで、コーヒーを啜っている。お気楽なものだ。

 日光に弱い体質とはいえ、もう少し真剣に取り組んでほしい。

 

「ひかえめに言っても、窒息しますよね」

 

「そうねぇ。あんまり影響力のあるものを異世界へ持ち込みたくは無いのだけど……」

 

 メリーはテラスの上に転がった木の棒を拾うと、僕に手渡した。

 

「これは?」

 

「海を割る杖よ」

 

「チートアイテムですか。

 すぐに楽をしようとする姿勢は感心しませんねぇ」

 

「この世界じゃそのへんの百円ショップで売ってるわ。

 昔の神様が使ったんでしょ?

 有名な人。えっと、モーラ?」

 

「モーゼですね。旧約聖書の」

 

「そうそう」

 

 有名な神様なので、ほとんどのニンゲンはモーゼというキャラクターを夢想したことがあるらしい。なので、幻想世界はモーゼで溢れかえっていたりする。だけどそれは本物のモーゼでは無い。チープな量産型の偽モーゼだ。

 

「ネルヴァの水は透明でしょ。しかも夜がない。

 加えて海底は黒。だから太陽の熱を吸収して、

 海温が上昇しまくってるのよ。

 粘菌たちは少しでも太陽の熱を逃がそうと、

 透明になっているってわけ」

 

「ははぁ。僕は熱に耐性がありますから、気になりませんでした」

 

「ちなみに海水じゃないからね。あの透明なのはぜんぶ粘菌よ」

 

 メリーは生物系の知識が豊富だけども、夢のないことを言うから困る。

 

「ま、ともあれあそこの海底洞窟に埋まっている宝は強力よ。

 ウチが回収しとかないと争いの火種になっちゃう。

 とっとと潜ってきなさいな」

 

 僕は肩をすくめるとナイフを取り出し、首を裂いて死んだ。

 ちなみにこれは自殺ではない。転生だ。

 

 

 

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 +

 

 杖の一振りで海を割ると、深海の黒が丸見えになった。

 海底を歩いてみるとメリーの言う通りに熱い。いや、尋常なく熱い。

 足元で跳ねている魚たちは、どうやってこの熱を耐えているのだろう。

 

 地図を頼りに進み、宝を探すこと半日。

 やっとそれらしきものを見つけた時は、汗でどうにかなりそうだった。

 切り立った岩に突き刺さっているのは錆びた銅の剣だ。

 まさかあのオンボロ剣をめぐって三千もの世界が滅びたなど、誰が想像できようか。

 

「かの名高き『夜殺しの抜け羽根ニュクテリサァ』。

 敵対した人格は、切っ先を差し向けられただけで蒸発したと言う。

 さてさてどうしましょうか。持ち逃げすれば大魔王にでもなれるでしょうが」

 

  天使は慈善活動の団体のようなものだ。

 メリーは別に報酬はもらっていないし、その部下の僕にも報酬はない。

 そもそも生きていくためにモノを食べる必要もないのだ。

 不老不死だし、どんな世界にだって行ける上に、自由。

 

 満たされた僕たちが必要とするのは生きる理由。尊厳。役割。

 これを“座”と呼び、奪い合っている。

  生存欲求を満たされても満足しないのだから、ヒトとは因果なものだ。

 

「……ま。帰りますかね」

 

 僕は剣を引き抜いて、それを握りしめたまま、舌を噛んで自殺した。

 

 

 

 死後の世界で適当な映画を見て、ハンバーガーを買って、そこらへんのホテルに泊まり、お風呂にはいり、眠る。そうして僕の一日は終わる。

 魔王にならなくとも、僕には死後の世界がある。死後の世界とは、お金さえあればだいたいなんでも揃う便利な世界だ。適度に安全だし、ヒトも多い。

 魔剣はあの世特製の五百円ロッカーに預けておいた。

 物事に無関心な死後の世界の住民があんなものに興味を示すとは思わなかったが、まぁ念のためだ。

 

「あぁ。トーキョーはいつ来てもいいところね」

 

 メリーはこの世界に来ると、いつもそんなことを呟く。

 空気が汚いし、僕はそんなに好きじゃないのだけども。

 

 

 

 

 

 / 使用

【原创】「素材texture10」漫画/guoguo [pixiv]

【オリジナル】「[フリー素材] 海底洞窟」イラスト/ポックル [pixiv]